現金であらゆる困難と闘うページ

池袋 新文芸坐

追悼・橋本忍 より

 

 

製作：松竹

監督：中村登

脚本・原作：橋本忍

撮影：厚田雄春

美術：芳野尹孝

音楽：黛敏郎

出演：佐田啓二　伊藤雄之助　宮口精二　三井弘次　殿山泰司　織田政雄　藤間紫　桜むつ子

１９６０年５月２０公開

 

警視庁捜査二課の松本刑事（伊藤雄之助）は、２年前から投資経済会の内偵を進めていました。投資経済会は多くの出資者から金を集め、月３分の高額配当で還元していました。今や会員数２０万人、出資総額７０億円という大規模な組織に発展しており、調査を続けているにも関わらず、なかなか事件になるような尻尾を掴ませません。

 

投資経済会は高額配当をしているため、利息分は株式投資で補っていましたが、株価が暴落すれば忽ち資金繰りに行き詰る危険性を孕んでいます。そのため、理事長の天野（佐田啓二）は政治家を抱き込み、投資銀行法案の立法化を急いでいました。この法案が通過すれば、投資経済会は銀行と同じ扱いをうけ、出資者の権利は法律で保護されることになるからです。

 

ところが、法案を検討している途中で、株の大暴落が起き、資金の目減りによって、投資経済会には出資者からの取り付け騒ぎが相次ぎます。元金の解約を一時的に引き延ばすことで、当面の問題を凌ぎますが、投資経済会にとって、執拗に投資経済会の内情を探る捜査二課の松本は、目の上のたん瘤のような存在でした。

 

天野は女や金品などあらゆる手段を使って、松本を籠絡しようとしますが、実直な刑事の松本は動じません。裏金を与えた政治家も当てにはできず、最後の手段として理事の西垣（宮口精二）が松本と差しで話をつけようとするのですが・・・。

 

元々は前年にテレビ放映されたドラマがベースの映画化で、天野役を芦田伸介から佐田啓二へ、母親役を飯田蝶子から浦辺粂子へ、妹の美沙役を香川京子から城山順子に変更した以外、主要キャストはテレビ版と変わっていません。

 

投資経済会の天野は、最初から出資者を騙すつもりで事業を始めた訳ではありません。自分が融資を頼んだ際に、銀行から冷たい扱いをされ、その恨みが多少はあったでしょうが、最終的に出資者に元本と利息を支払った上で、儲けた金を天野、理事の西垣、黒河（殿山泰司）、秘書課長の磯辺（三井弘次）で山分けするつもりでいました。

 

ところが、株価の暴落と欲をかいたために、ずぶずぶと泥沼に引きずり込まれていきます。理想を掲げながら、組織を運営していくうちに変節してしまうのは、ジョージ・オーウェルの「動物農場」と一緒で、投資銀行法を成立させたいがために、政治家に金をバラまいた時点で、崩壊のカウントダウンは始まっていたと言えます。

 

社会派サスペンスにも関わらず、いろはかるたを口ずさみながら、苦境を脱しようとする伊藤雄之助がなかなか面白いキャラクターになっています。一癖も二癖もある伊藤を、投資経済会の天野ではなく、敢えて刑事役に振ったところがこのキャスティングのミソでしょう。本作に関しては、とぼけた狸爺ぶりは封印して、生活に汲々している刑事の悲哀が滲み出ています。

 

特に西垣が現金５００万円を目の前に積んで、捜査に手心を加えるよう迫る場面で、松本刑事が発するセリフが泣かせます。松本は身辺を綺麗にしておくため、異常とも思えるほどの潔癖さを見せます。あまりにも潔癖過ぎるので、時に家族からも恨みを買い、気のある呑み屋のママからお誘いがあっても、土壇場で逃げ帰ってしまいます。しかし、結果的にはその用心深さが、自分の身を守るのです。

 

投資経済会の幹部は確かに悪いです。金を受け取りながら、投資経済会の風向きが怪しくなると知らん顔を決める政治家はもっと悪いです。ただし、被害者とされる出資者にも問題はないでしょうか？いつの世にもおいしい話には裏があり、そのリスクを考慮せずに、儲け話に乗った者にも自己責任はあるはず。加害者を糾弾するより、まずは己の至らなさを恥じ、高い授業料を払ったと思ったほうがいいでしょうね。

 

こんにちは

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��も出来るちょっとしたこと〜

今できることを考え…