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昨日は体調がよく

 

【更紗満天星（さらさどうだん）】

属名「Enkianthusエンキアンサス」

ギリシャ語のenkyos（妊娠する）＋　anthos（花)

花言葉・・・明るい未来

 

 

 

 

 

 

秋の始めに　懐妊された王妃媽媽の

 

出産に向けてのプロジェクトが動き出した

医仙　ユ・ウンス

 

御典医　チュ・ジフン

 

王妃媽媽付き最高尚宮　チェ尚宮と

 

懐妊プロジェクトから引き続き

 

王妃付きの二人の女官

 

アン・ドチ内官長

 

典医寺の医官達

 

王妃媽媽が口にされる食事を担当する

 

水刺間（スラッカン）の女官長と女官二人が

 

一堂に会した

 

 

「妊娠初期の大切な事は・・・」

 

ウンスは指を立てながら

 

「先ず　走らない

 

これは　王妃媽媽なら大丈夫ですね」

 

媽媽が宮中で走られる姿など

 

これまで一度も見たことがなかった

 

「そして　転ばない」

 

武閣氏の長が任せておけと言うように頷く

 

「それから　身体を冷やさない」

 

温陽（オニャン）へ

 

温泉療養へ出かけてから約三ヶ月

 

体質改善の為の苦い薬湯も欠かさず飲まれて

 

冷えを訴えられる事も少なくなった王妃媽媽だが

 

「これから季節は冬に向います

 

お風邪など召されても

 

お腹の赤ちゃんへの影響を考え

 

薬湯を飲む事が出来なくなります」

 

「医仙　

 

それは　真実（まこと）ですか」

 

慌てるチェ尚宮に　

 

「大丈夫です　

 

安定期・・・ 五ヶ月に入ると

 

薬湯が飲めるようになります

 

そこまでが大切なのです」

 

皆はウンスの言葉に

 

王妃媽媽が無事に安定期を迎えられるその時まで

 

気を抜いてはならぬと　決意を瞳に込めた

「この先　王妃媽媽のお腹の中では

 

胎盤というものが作られていきます

 

胎盤は

 

妊娠して初めて作られる特殊な臓器です

 

妊娠七週頃（妊娠2ヶ月の終わり）から作られ始め

 

安定期直前の

 

妊娠十五週（妊娠4ヶ月末）頃に出来上がります

 

その役目は　王妃媽媽のお腹の中で

 

呼吸や消化　排泄など

 

赤ちゃんが順調に育つための機能を担う臓器なのです」

 

其処にいた医官達も

 

赤子が生れ落ちたあと　

 

後産と呼ばれる物が出てくる事は知識として学んではいたが

 

その成り立ち　役割を聞き　天の医学の秀逸さを改めて思い知る

「胎盤が大きくなる時期には

 

肝臓に血を集める為に　なるべく横になって頂きたいのです」

 

「分かった　お勧めしよう」

 

チェ尚宮が答える

 

「それから・・・アン・ドチ内官長」

 

「はい　医仙様」

 

「王妃媽媽の公務を　減らす事は出来ますか？」

 

「御公務をですか？」

 

「はい

 

特に　重臣達の視線を浴びて

 

姿勢も崩さず長時間座り続ける・・など

 

精神的な緊張が続くのは体に障ります」

 

「王妃媽媽が御公務で臣下の前に出るのは

 

避けた方が良いという事でしょうか？」

 

「出来れば」

 

「分かりました　調整致します」と　頷き　

 

アン・ドチ内官長は　チュ侍医へ尋ねる

 

「侍医からは　何かございますか」

 

「身籠ると　気の揺れが大きくなります

 

その分　気鬱になり易いので　

 

溜める事が無いようにして頂きたいのです」

 

侍医の言葉を受けて　ウンスが補足する

 

「王様とお言葉を交わされるだけでも

 

王妃媽媽のお心が　穏やかになります

 

ですので　

 

二人きりの時間を増やして欲しいのです」と 頼むと

 

王様にとっても　心安らぐ刻になるだろうと

 

アン・ドチの口元も緩む

 

「承知致しました」

 

 

 

「次に　

 

いま以上に　お食事が大切になります」

 

水刺間（ スラッカン）の女官長が背筋を伸ばす

 

「王妃媽媽に　積極的に取って頂きたいのは

 

先ず　ビタミンＥ　

 

これは　末梢血管を広げて

 

血行を促進する作用があります」

 

「医仙様　

 

びたみん・・・いー　とは

 

どのようなものでございますか？」

 

メモを取る女官からの質問に

 

「あっと・・・　栄養成分の名前なんだけど

 

それは書かなくても良いわ」

 

高麗時代に通じるものに

 

変換出来ない現代の言葉を話したウンスは

 

決まり悪そうに　次の言葉を急ぐ

 

「食材としては

 

緑黄色野菜　色の濃い野菜です

 

葉物　　根菜ならば人参やかぼちゃ

 

豆　海苔　胡麻　胡桃

　

レバー・・・・は無理よね　

 

あっ　卵　　卵は・・・・」

 

「ご用意出来ます」

 

水刺間（ スラッカン）の女官長が誇らしげに答える

 

ウンスは笑顔で頷いて

 

「それらを積極的に取って頂く事により　

 

媽媽の冷え性を　根本から改善したいと考えています

 

体の冷えは筋肉が硬くなって

 

お産が長引く可能性がありますので」

 

女官長は　ウンスの一言一言に頷き　　

 

傍にいる女官が筆を走らせた

「それから　王妃媽媽には　

 

お風呂上りに・・・えっと

 

湯殿をお使いの後　

 

運動をして頂きたいと考えています」

 

ウンスは王妃媽媽に

 

妊婦体操をしてもらおうと考えていた

 

「医仙

 

王妃媽媽に　運動とはどういう事ですか」

 

気色ばむチェ尚宮�
�

 

「尚宮様　ご安心下さい

 

運動と言っても

 

兵達が行う鍛錬のようなものではありません」

 

「はぁ・・・左様ですか」

「天界ではマタニティー体操と呼んでいます

 

妊婦の為の運動という意味です

 

それを行う事で

 

妊娠中に起こる身体の不調の解消と

 

お産に向けた体づくりを致します」

 

チェ尚宮は

 

『大丈夫なのか？』と　チュ侍医を見る

 

チュ・ジフンは笑みを口許に浮かべ頷いた

 

「チェ尚宮様　

 

詳しいやり方は　坤成殿にて

 

王妃媽媽を交えて

 

お話させて頂きたいと思っています」

 

「分かった」

 

「では　

 

妊娠初期に気を付けて頂く

 

注意事項とお食事のカンファレンス・・・

 

協議は此処までとします

 

何か質問はありますか？」

 

ウンスはグルッと皆の顔を見回した

 

「いいえ」

 

「大丈夫です」

 

「ございません」

「何かありましたら

 

その都度ご連絡下さい

 

次回の会合は　王妃媽媽が安定期を迎えられましたら　

 

集まりたいと思います」

 

「はい」

 

それぞれが自分の持ち場へと足早に向かって行った

 

 

 

 

 

 

昼下がり　坤成殿へ出向いたウンスは

 

薫り高いお茶を頂きながら

 

「王妃媽媽

 

これから　天界のマタニティー体操を

 

やって頂きたいと思います」と　話を切り出した

 

「姉様　それはどのようなものですか？」

 

「マタニティー体操とはですね

 

妊婦の為の運動という意味です

 

それを行う事で

 

妊娠中に起こる躰の不調の解消と

 

お産に向けた体づくりを致します」

 

全幅の信頼を寄せる医仙の言葉に

 

王妃は頷いた

 

「まず　最初に

 

この運動の呼吸は　腹式呼吸で行います」

 

「姉様　　

 

ふくしきこきゅう　とは何なのでしょう」

 

（あ～　先ずは此処からね）

 

出そうになる溜息を飲み込む

 

何もかもを説明していくと　話はどんどん長くなる

 

だが　納得して運動を行って頂く為にも

 

根気良く丁寧に答えた

 

「私たちが普段無意識に行っている呼吸を

 

胸式呼吸と言います

　

腹式呼吸はお腹を使って呼吸をするやり方です」

 

「その　ふくしきこきゅうと言うのが　

 

王妃媽媽にとって　良い呼吸なのだな」

 

最高尚宮は　確認を欠かさない

 

「はい　腹式呼吸は

 

疲れた体を修復させる神経を助けてくれます」

 

チェ尚宮が頷くと　ウンスは話を続けた

 

「王妃媽媽　

 

丹田をご存知でしょうか？」

 

「分かります」

 

「では　

 

まず背を伸ばして鼻からゆっくり息を吸い込みます

 

丹田に息を貯めていく感じでお腹を膨らませます

 

次に口からゆっくりと息を吐き出します

 

丹田に貯めた息を全て吐き出すつもりで

 

お腹を凹ませていきます

 

これが複式呼吸のやり方です」

 

「妾にも　出来るでしょうか」

 

「大丈夫です」

 

王妃媽媽は　静かに目を閉じられ

 

ゆっくりと息を吸い込まれた

 

それから　

 

ふ～～～～っと長い息を吐き出される

 

「これで合うていますか」

 

「上手です　王妃媽媽

 

腹式呼吸による深い呼吸は

 

自律神経の均衡（バランス）を整え

 

精神的緊張（ストレス）を軽減する効果があるとともに

 

内蔵の血行が良くなり新陳代謝が高まります」

 

「左様か

 

それは良い事を教えて頂いた」

 

「それに　この呼吸法は

 

出産の時に痛みを逃すのにも役に立ちますから

 

是非　習得してください」

 

「はい」

 

頷かれる媽媽の瞳には　

 

どんなことをしてでも　無事に吾子を産み

 

王様の胸に抱かせたいと強い決意が現れていた

 

 

「では　王妃媽媽

 

今日から　お風呂の後

 

足首を動かす運動をやって頂きます」

 

ウンスの提案に

 

「足首の体操？・・・ですか」

 

チェ尚宮が腑に落ちない顔でウンスに尋ねた

 

「はい

 

足首はですね

 

骨盤と深い関係がある部位で

 

足首を回す事で　骨盤の動きに良い影響を与え

 

血流も良くなると言われています

 

ですので　まずは足首を動かしたり

 

股関節を柔らかくしたり　軽めの体操を　

 

体が温まった後　行って頂きたいのです」

 

『それで湯殿の後と言ったのか』

 

チェ尚宮は　納得したように頷き

 

王妃媽媽付きの女官に目で合図をすると

 

女官はウンスの口元を見詰め　

 

一言も書き漏らさぬよう筆を握り直した

 

「分かりました　姉様」

 

やり方をお教えください」

 

「まずは　足首を解（ほぐ）していきます

 

椅子に座って頂き　足首を片方五回ずつ上下させます

 

次に　足を組んで上にある足のつま先を上に向け

 

腹式呼吸を一回行なってから下におろします」

 

ウンスの言葉に合わせて　ゆっくりと

 

王妃媽媽の衣の裾が揺れる

 

「反対の足でも同様の動きをして頂き

 

これを　左右五回ずつ繰り返し行って頂きます」

 

「これで　良いですか？」　

 

「ええ」

 

ウンスはニッコリと微笑んだ

 

「次は股関節の運動です

 

チェ尚宮様

 

この運動は　座って行いますので

 

王妃媽媽が冷えないよう　

 

ポリョ※の長座布団をご用意下さい」

※貴人の部屋に常備する座布団

 

元育ちの王妃媽媽も　高麗での暮らしの中で

 

此方の風習も習得されている筈だから

 

床に腰を落とし膝を立てる座り方※は　ご存知だろう

※立て膝　支配階級の女性達の正しい座り方

 

 

「では　私が先ず　

 

やり方をお見せ致します」

 

ウンスは王妃媽媽の前に座り

 

トレーナーのように手本を見せる　

 

胡坐（あぐら）を組んで床に座り背筋を伸ばし

 

膝の上に手をおき腹式呼吸で息を吐きながら

 

上体を前に軽く倒す

 

「王妃媽媽

 

先程　練習しました腹式呼吸で行います」

うんうんと　頷きながら向かい合わせの媽媽も

 

お手を両膝に置かれた

 

「このとき　背中を伸ばしたまま　

 

倒すことを意識してください

 

そして上体を倒したまま一呼吸おき

 

また息を吸いながら上体を元に戻します」

 

「医仙　

 

媽媽に　そのような動きは・・・」

 

チェ尚宮が慌て気味に　中断させようと声を掛けたが

 

「王妃媽媽の股関節が柔らかくなれば　

 

子宮口や産道が開き易くなり

 

赤ちゃんが出易くなるのです」

 

「吾子の為になるのなら

 

やってみよう」　

 

若い媽媽は　思った以上にお体は柔らかだった

 

「姉様　湯殿の後　直ぐに行えば良いですか？」

 

「いいえ　少し落ち着いてからが良いでしょう

 

その時は　ゆったりとした衣で行ってくださいね」