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Side C
憧れの気持ち
兄のように慕う気持ち
追い付きたい、そしていつか堂々と隣に並びたいという気持ち
長らく抱いて来たその思いは、只々純粋なだけのものだった
それなのに、それらは全て混じり合って、いつしかユノヒョンの全てを欲しい、と…
そう思うようになった
けれども、そんな気持ちに気付いたのと同時に、この気持ちは叶わない恋なのだと自覚した
だって、ユノヒョン、あなたは…
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
「ユノヒョン、僕の部屋に夕飯を食べに来ませんか?
今日はもう終わりだし…
ヒョンが前に美味しいって言ってくれたカルボナーラを作ろうかと思って」
楽屋でふたりきり
収録も終わって、予定よりも早く帰宅出来そう
身支度を整えるユノヒョンの背中に声を掛けたら、ゆっくりと振り向いた
「どうですか?最近あまり話せて無かったし…」
平然とした顔を作って明るく誘ってみた
本当は、心臓の鼓動は物凄く五月蝿い
ユノヒョンは切れ長の瞳を一瞬、丸くして少し思案するような顔
そして、まるで太陽のように笑って言った
「チャンミナのカルボナーラ、美味かったのを覚えてるよ
ええと…でも、折角誘ってくれたのに悪いな
今日は先約が有るんだ」
「そう…ですか
じゃあ、明日はどうですか?」
「明日はまだ分からないよ
空いたらチャンミナの所に行こう、それなら良いか?」
「……」
唇を尖らせて俯いたら、ぽん、と頭に大きな掌が乗せられた
「チャンミナはヒョンの事が大好きだよな」
「…揶揄わないでください
仕事も最近別々が多いし…だから話したいなあって思ったんです」
ユノヒョンは、当たり前だけど…
僕の事を弟のように思っている
大切にしてくれているのは分かるけれど、プライベートで大切にしてもらえる訳じゃ無くて、あくまでもビジネスパートナーだ
それでも…ビジネスパートナーなのにいつも甘やかしてくれるから、きっと、僕はとても恵まれている
だけど、それじゃあ足りない
本当は、先約が有るって知っていたんだ
だって、ついさっき電話が掛かって来ていたから
僕に聞こえないように話していたつもりなのだろうけど…
相手の声なんて聞こえなくたって分かった
女性なんだって
それでも…
仕事の、とは言えパートナーである僕を優先してくれると、そんな淡い期待を抱いて誘ってみたんだ
けれども秤に掛けられたのは一瞬で、どれだけ大切に思ってくれたところで柔らかな身体には敵わないのだと思い知らされただけ
ユノヒョンはいつの頃からか、不特定多数の女性を相手にするようになった
マネージャー曰く、有名人や著名人を専門に相手する、所謂プロの女性や、問題になる事の無い口の固い相手、
のみを選んでいるらしい
そんな女性達と僕のヒョンが夜を共にする回数は増えて…そんな時、例え先に決まっていたって僕との約束は後回しになってしまう
僕が、昔と変わらずにユノヒョンを普通の兄のように慕っていたのなら、こんな風に胸が引きちぎられそうな思いをする事は無かった
だけど、自覚してしまったし、それを無かった事に出来る程僕は器用では無いし、傍に居れば居る程想いは募るばかり
頭を優しく撫ぜてくれた掌はもうとっくに離れて、ユノヒョンの興味はもう、僕には無い
このままじゃあ、今日もまた、誰か知らない女性にヒョンが取られてしまう
ずっと耐えて来たけれど、本当は、身体が引き裂かれそうに辛い
言ってしまおうか、そう思った
男同士で、なんて…
そんなの普通じゃあ無いって分かっている
だけど、このまま抱え続ける事が出来る程、僕はやはり器用では無いから…
「ヒョンは…
特定の人と付き合おうとは思わないんですか?」
糸口を見付けたくて、ユノヒョンの考えが知りたくて、そう問い掛けたら彼は笑った
「あはは、チャンミナは面白い事を言うね」
何をおかしな事を、とでも言いたげに、僕の前では見せる事の無い雄の顔で笑う
それは、僕が知っているユノヒョンでは無くて…
まるで、僕はヒョンに置いていかれたような心許なさを感じると共に、自分が何も知らない子供のようにも思えたんだ
「面白い、ですか?」
「ああ、チャンミナには分からないかな
人は裏切るだろう?
好きだとか愛しているだとか言ったところで、そんなのは続くものじゃあ無い
それなら、身体だけでお互い楽しんだ方が健全だろ」
身体だけか健全なのか、なんて僕には分からない
けれども、ユノヒョンが本気でそれを口にしているという事は分かった
裏切る、なんて…
僕の事もそう思っているのだろうか
いや、こと恋愛に於いて、の事で有るのなら、『只のメンバー』である僕はまた別なのだろうか
もしもそうならば、いっそ恋愛対象に見られて、裏切るかもしれないと思われた方が幸せだって思った
「チャンミナ?もう出ないと…」
「ユノヒョンは、僕と居るよりも…」
「何?」
慌てて口を噤んだ
『僕と居るよりも女性と、の方が良いんですか?』
そう思わず口にしてしまいそうになったから
気持ちのまま言葉として放たれるものを、そのまま止める事が出来なければ
『行かないでください』
『ユノヒョンが抱いてきた女性達よりも僕の方がヒョンの事を…』
そう口にしてしまいそうだったから
「いえ、その…
もしも関係を持った女性に想いを告げられたら…
ユノヒョンはどうするんですか?」
これ以上深みに嵌ってはいけない
危険だと、頭の中では警戒する信号が鳴り響いている
けれども、僕にとって誰よりも魅力的なあなたから目を逸らすだなんて、僕には出来そうも無い
瞬きも忘れてしまうくらいの緊張が僕の身体を襲うなか、ユノヒョンの答えを待った
ヒョンはほんの少しだけ考えるような素振りをして、それからとても優しく…
そして、とても悪い顔で微笑んだ
「さよならだな」
「…え…」
「もしも抱いた相手にそんな面倒な事を言われたら…
想像しただけでも萎えるよ」
「そう、なんですね…」
ユノヒョンを求めている
そして、同じようにユノヒョンに求められたい
胸に抱いた、小さくなる事の無いこの感情は、けれども伝える事すら許されないものなんだと知った
それでも、ユノヒョンがどれだけ悪い男だったとしても…
見ない振りも抗う事も出来ない位に、僕の心も、そして身体も、あなたを求めているんだ
「ヒョン…
お願いがあります」
心臓の鼓動が五月蝿い
耳の奥でぐわんぐわんと鳴り響いているよう
けれどももう、引く事も出来ない
女性の代わりでも良い
例え、身体だけでも良い
「どうした?チャンミナ…
熱でも有るのか?顔が赤いな」
乾いた唇を舌で舐めて目の前のユノヒョンを上目遣いに見つめたら、漆黒の瞳にほんの少し、情欲の色が見えた
心が手に入らないのならば、せめて身体だけでもユノヒョンの事が欲しい
そして、この身体を捧げてヒョンのものになりたい
只のメンバーでいるよりも、捨てられるかもしれない女性と同列になれた方が、恋を自覚してしまった僕には幸せなんじゃあないかって思った
「…赤いですか?」
「ああ、少し心配だな」
大きな掌は男らしい
それなのに、長くて綺麗な左の指が僕に向かって伸びて
、そうっとこめかみに触れられた
けれども、触れるだけで直ぐに離れていきそうだったから、それが嫌で寂しくて…
瞼を閉じて、人差し指に頬をすり寄せた
離れていかなかった指に満足して、ゆっくりと瞼を持ち上げたら、僕を見つめる視線とユノヒョンを見つめる視線が宙で絡み合う
「やっぱり…少し熱っぽいな」
「そうかもしれません
だから、今日だけは…」
僕の言葉にくつり、と嗤う悪い男
「チャンミナ、いつの間にこんなにおとなになった?」
「僕は、とっくにおとなです…」
本当は震えてしまいそうな位怖い
けれども、同じくらい期待に震えている僕がいる
僕は今、男を誘惑する妖艶な女性なんだって
そう、無理矢理暗示をかけて、ユノヒョンに負けないように不敵に微笑んで見せた
「あはは!いいね、チャンミナ
ちょっと待ってて?」
そう言うと、ロングコートのポケットからスマートフォンを取り出した
長い指で操って、耳にあてた
程なくして、まるで僕に聞かせるように話し出した
「ヨボセヨ、悪いな…
今日なんだけど、他のやつと会う事になったからまた今度にしてくれ
……ああ、分かった、次を楽しみにしてるよ」
女に言葉を向けながら、けれどもその視線は僕へと向けられていた
それがまるで、僕の心の中まで覗かれて裸にされていくような…
そんな錯覚に陥った
きっと、『これ』が…
ユノヒョンが彼のものにする女性に向ける視線
見つめられると、身体に熱が灯っていく
男と、だなんて考えた事も無かったのに、全部ユノヒョンの所為だ
もう、早く欲しくて仕方無い
「お待たせ、チャンミナの家で良いんだろ?
行こうか」
通話を切ったユノヒョンはスマートフォンをポケットに仕舞って、何事も無かったかのように僕に向き直った
だから僕も、何事も無かったかのように、ユノヒョンを誘惑する
「はい、折角なので泊まっていってください…ね?」
「朝まで?
チャンミナがそんなに…だなんて知らなかったよ」
「言ったでしょう?僕もおとななんだって」
腰にまわされた手からユノヒョンの熱が伝わってきて、それだけで眩暈がした
あなたが悪い男であるのならば、僕も同じ所まで堕ちて行けば良いだけの事
気持ちを口に出来ないのならば、それで良い
簡単だろ?
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そしてご覧下さいね
喉を撫でてもらいにゃがら見せる
くりり…っとした
可愛いおめめと表情が
気持ち良さから
次第に変化していきます
勿論飼い猫であるからなのだけど
臆病で
警戒心の強い生き物である猫が
無防備にお腹全開にして
目を閉じ
安心して身を委ねてくれている…
みゆうが信じてくれていること
みゆうに信じて貰えていることを
みゆうの
温かい背中を通して感じます
今日もお越し頂いて
ありがとうございました