ユノの口コミ情報が満載、自慢の価格と品質でご奉仕させていただきますよ

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ユノ いくぜ!100万台!

「あのっ、やっぱり下ろしてください」
「ん?無理」
無理、だなんて言うけれど僕だって無理だ
顔は見えないけれど、
ユノ先輩の声は嬉しそうに弾んでいる
どうしてそんなに堂々と出来るのか分からない
だって、周りのひと達は僕達をちらちら見ているから
空港の駐車場に着いたら
もうあまり時間は無かった
別れや余韻に浸る事も出来ず
早足で空港内に向かわないと…
なんて思っていたら、
「リュックを持つよ」
そう先輩は言ってくれた
その言葉に甘えて、画材の入ったリュックを渡したら
それを背負って更に…
「僕まで抱えるなんてお願いしてないです」
「だって捻挫しているから
包帯もしているし、誰も変になんて思わないよ」
「でも捻挫です
それに大の男が抱き上げられていたら、ほら…」
「ん?」
昆布刈石で捻挫をした後と同じように
所謂お姫様抱っこ、をされてしまった
絶対に周りのひとの視線を感じている筈なのに、
先輩はとぼけたように僕を見下ろす
「大の男だろうが30歳でも20歳でも
チャンミナは俺の大切なひとだから
恥ずかしかったら顔を隠したら良いよ」
「先輩…今…」
先輩の胸に顔を埋めるように俯いていたら、
頭に何かが触れて…
両手は僕の脚と背中を支えているから
それ以外、となるとキスされたのだと直ぐに分かった
「見られたらどうするんですか
ただでさえ目立っているのに…」
「だってもう、後少ししか居られないから」
そう言うと立ち止まったから顔を上げたら
2階の出発ロビーに向かうエレベーターの前だった
「誰に見られたって良いよ
ひとを愛する事は美しい事だろ?」
「でも、一般的には…」
絵画でも、きっと写真でも…
美大時代もそうだったけれど
様々なセクシュアリティのひとを見て来た
だけど、多くのひとは同性同士が『普通』よりも親密であるのを目の当たりにすれば、驚くものだって事は当たり前に分かる
「乗ろうか」
電子音が鳴ってエレベーターの扉が開いた
誰も乗っていないし
僕達の他に乗るひとも居ない
1階から2階に上がるのなんてあっという間
「ひとの視線の方が大事?」
「…そんな……あ…ん…」
僕のリュックを背負ったまま
僕を軽々と抱き上げてしまう先輩の腕は
きつく僕を抱き締めて…
唇が重なったら僕も他人なんてどうでも良くなって、
首に腕をまわして舌を絡ませ合った
「…っん…好き、ユノ…」
「…もっと呼んで
先輩、も良いけど…やっぱり名前が良いよ」
「ユノ…まだ慣れません…」
一秒が長いような短いような
エレベーターのなかのほんの…
きっと十数秒の時間だけれど
車を降りてもふたりきりになれた事は
何だかとても幸運な気もした
扉が開いたら、目の前には老夫婦が立っていて
僕達を見て少し目を丸くしたようにも見えたけれど、
ユノは微笑んで会釈してそのまま降りて擦れ違った
「羽田に着いたら連絡して
勿論着く前でも」
「じゃあ、ユノ…先輩も、
あの家に帰ったら連絡をください」
「あはは、こどもみたいだな」
「だって車だし夜だし危ないし…」
なんて言っているけれど、
抱き抱えられている僕の方がまるでこどもだ
先輩が厳重に包帯を巻いてくれたから
僕の右足首は重症に見える
でも、実際は痛みはあっても歩ける
「この捻挫が治ったらやっぱり少し寂しいかも」
「俺と過ごした証拠だから?」
「そうです、思い出みたいな…」
現実から逃れるように普通に話している 
でも、先輩が向かう先に『保安検査場』の文字が見えて、現実に襲われた
「…ありがとうごさいます
何だかお世話になりっぱなしでしたね
先輩が都内に来る事が有れば僕がお世話します」
「本当?期待してるよ
カルボナーラ、次に食べられるのを楽しみにしてる」
先輩は僕をゆっくりと下ろして、
それから頬を両手で包んだ
「また会えた事も、何度再現しようと思っても再現出来なかったカルボナーラを食べられた事もまるで奇跡だ」
「カルボナーラばかりじゃないですか…」
照れ臭くて、それに少し巫山戯てみないと
涙が溢れそうだから、唇を尖らせて誤魔化した
僕が搭乗するのは羽田行きの最終便
出発時刻も迫って来てアナウンスも流れ初めている
直ぐ先にある保安検査場に向かうひと達がちらほら居て、やはり視線を感じる
好奇の視線で見られたら、
気持ち悪がられたら、
そうやって考えていた
でも、迷惑を掛けている訳じゃない
近くにはきっと僕達と似たような… 
性別が男女なだけの違いであろうカップルが居て
同じように別れを惜しんでいる
僕達だって変わらない
気持ちの強さだったら負けない自信だって有る

「ユノ先輩」
「うん」
「愛しています」
後悔したくないから、
僕から最後にキスをした
だって、離れてもFaceTimeで顔を見て話す事が出来ても、やっぱり触れる事だけは出来ない
だから、先輩の柔らかい唇の感触を覚えていようと思った
「…愛してるよ、チャンミナ」
「両想いですね」
リュックを受け取って背負った
後はもう、泣きたくないから
口の粘膜をぎゅっと噛んで笑った
「じゃあまた」
「ああ、気を付けて」
振り返ったら前に進めなくなりそうだから
前だけを向いて歩く 
包帯で膨らんだ右足首
靴は踵を踏んだままだから少し歩き難いけれど、
きちんと固定してもらったお陰で痛みはさ程感じない
検査場を越えて、どうしても我慢出来なくて
一度だけ振り返ったら…
「…先輩」
小さくなった先輩の黒い瞳
明かりのせいなのかもしれない
そんな風に見えただけかもしれない
だけど、きらりと光って見えた
大きく手を振って
泣き笑いみたいになって
今度こそ振り返らずに前へと進んだ
先輩の居なくなった時間はあっという間に過ぎていく
きっと直ぐに、先輩と過ごした時間よりも
先輩の居ない時間の方が長くなっていくのだろう
「…やっぱり星が凄い…
東京じゃ見れないよ」
離陸した飛行機、窓から空を眺めると
ついさっき、先輩の車の助手席から眺めた空を思い出す
「あ、そうだ…ムービーと写真…」
先輩がソフトクリームを買いに車から降りた時、
星空を撮影しようと写真と動画を取ったんだ
写りをきちんと確認していなかったから
イヤホンを装着して、フォルダを開いた
写真を見ると、少しは星の光もわかるけれど
やはり肉眼で見たようには捉えられて無かった
それでも思い出になるし
目にも焼き付けたから良い
ムービーならもう少し星も見えるかな?
そう思って再生したんだ
そうしたら…
「……これ…」
忘れていたんだ
ムービーを撮っていたら先輩が窓の外から
僕のスマホを覗き込んで来た事
少しおどけた表情でスマホを覗き込む
僕は驚いたから一瞬ブレて…
『写真?』
『ムービーです…それよりそれ…』
『ああ、一緒に食べようと思って
あと少しで空港だから…』
「…後少しで見えるのに……あ…」
隣のサラリーマンの訝しげな視線を感じて、
慌てて頭を下げた
ムービーには先輩の首元が映っていて
顔が映らない
その後は先輩が『止めないで』と言って
僕がスマホを腿の上に置いたから、
映っているのはやっぱり…
あの時思った通り、天井と、それから僕の顎だったり
あまり見たくないアングルの顔
だけど、そこにはずっと先輩の声も入っていて…
『大丈夫だよ、離れても好きだから』
「…っ…」
イヤホンを通して聞く声は少しだけ篭って聞こえた
だけど、離れても大丈夫だって…
先輩が確かに言ってくれているから
このムービーは何があったって、
絶対に消す事は出来ないと思った
『車内で撮っていたムービーに
たくさん先輩の声が入っていました
離れても傍にいるようで嬉しいです
先輩も家まで気を付けてくださいね』
メッセージを送信したけれど、
なかなか返信は無かった
だけど運転しているだろうから…
本当は直ぐにでも話したいけれど
我慢しなければと思った
起きていたら感傷にふけって
涙を零してしまいそうだから、
後はもう、目を瞑って過ごす事にした
「…ん…」
着陸準備を行う、という機内アナウンスで意識が浮上して、眠ってしまったのだと気が付いた
直ぐにスマホを確認したら、メッセージアプリに動画が送られていた
差出人はユノ先輩
「…かっこよすぎます」
折角目を瞑って泣かないようにしようと思ったのに、
先輩が捕らえた星空には流れ星が確かに映っていて…
それを見たら涙が溢れてしまった
『これでいつでも願い事を掛けられるだろ?』
何百回、何千回でも見る事の出来る掌のなかの流れ星
僕達の願いを叶えてくれるなら
何だかとても都合の良い話
だけど、『願い』なんて大それたものじゃなくても
先輩が撮ってくれた夜空を、流れ星を見られるだけで
小さな願いが叶うくらい幸せになれるから、それで良い
………………………………………………
現実に戻ると日々はあっという間に過ぎ行く
都会は刺激も多くて
僕を成長させてくれるものも
勿論たくさんある
素晴らしい才能を持ったひとがたくさん東京には集まっていて、運が良ければ雑誌やテレビのなかのひとと会う機会も有る
だけど、そうじゃなくても
今は電波が世界中を飛んでいて、
光の速さで距離を超える事が出来る
「ユノ、今日もお疲れ様でした」
『うん、チャンミナもお疲れ様』
「今日、また届きました
ユノは大変かもしれませんが…
凄く楽しみにしてるんです」
僕がそう言ったら、タブレットの画面の向こうの先輩は目を細めて、まるで少年のように笑った
『俺が作りたくて作ってるんだから喜んでもらえたら
こんなに嬉しい事は無いよ』
二三ヶ月に一度、まるで定期購読している雑誌のように届くのは、世界に一冊の…僕の為に先輩が作ってくれる写真集
初めは僕が北海道に来た時の写真を先輩が現像して、
本のように纏めてくれたものだった
それが凄く嬉しくて…
ふたり一緒に写っている写真や、
先輩が僕をこっそり撮った写真、
そして何より
先輩が切り取った景色が泣けるくらいに綺麗で…
興奮しながらそんな話をしたら、
それがいつの間にか恒例になったんだ
『チャンミナもそろそろ俺の絵を送って欲しいな
もう一年になるのに…』
「風景画なら送ったじゃないですか…」
『チャンミナが描いた俺を見たいの』
画面の向こうの先輩は
まるで駄々っ子のように拗ねた顔をする
勿論それは大袈裟にしているだけだと分かるけれど、
実はずっと見たい、と言われているのに
誤魔化して来たんだ
だって、ちゃんとしたものを仕上げたかったから…
「先輩」
『何?最近ユノって呼んでくれるから
久々に先輩って呼ばれてどきっとしたよ』
「そんな風に言われたら恥ずかしくなります…」
言おう、と思うとどきどきする
でも、知られる前に言わなきゃ、だから…
「あの、ネットで検索して欲しいものがあるんです」
『ん?何か有るの?』
「はい
僕の名前と、それから…」
いざ言おうとすると、とても恥ずかしい事に気付いた
だけど、そんなのもう今更
「…名前と、『僕の好きな先輩』
そう、検索してみてください」
先輩はスマホを取り出して、
目の前…いや、画面の向こうで
綺麗な指先を動かしている
僕はもう、心臓が飛び出そうなくらいにどきどきして…
「何か出て来ましたか?」
『…チャンミナ、これ…』
「絵のタイトル通りです」
『おめでとう、凄いよ…
俺だっていうのが恥ずかしいけど…
自分に嫉妬してしまうくらい、この絵のなかの「先輩」が作者に愛されているんだって物凄く伝わって来る』
「だって、物凄く愛しているので」
先輩は小さなスマホのディスプレイに表情された
僕の絵を、タブレットの画面に見せてくれる
「ふふ、僕が描いた絵なので
見せてもらわなくても大丈夫です」
『あはは、そうか
何だか自慢したくなって…
これで金賞だなんて…恥ずかしいけど嬉しいよ』
目の横に笑い皺
それが本当に喜んでくれているのだと分かって
嬉しいのと、少し気が抜けてしまったのと、
これでやっと、という気持ちと…
「先輩」
『ん?』
「自分のなかで決めていたんです
名のあるコンクールで一番を貰えたら…
そうしたらユノの元へ行こうって
北海道の自然を描きたいって…
それが叶いました」
まさか一年で結果を出せると思わなかった
だけどそれはきっと、
ユノに再会して目的を持てたから
自分だけじゃなく、このひとの為に…
そう思えるひとがいつも心のなかに居たから
ずっと大事にしているスマホのなかの星空と流れ星に
願いをひっそりと唱え続けていたから
先輩と…ユノと夢を見たくて、
写真店のなかで大好きなカメラを覗いて優しく微笑む先輩の姿を、僕の今出来る全力で描ききる事が出来たから
『じゃあ店の物件を探さなきゃ
いや、まずは同棲の準備か…
チャンミナ、いつ来れる?
これからの事を話そう
ああ、違うな、俺が行くよ』
弾む声に僕の心も弾む
一度は諦めて、
諦めた事すら見ない振りをして過ごした
だけど、神様は僕達にもう一度チャンスをくれた
あの頃よりは僕達は少しだけ成長出来て
少し赤裸々にお互い本音を語る事が出来た
「ずっと一緒に居る事になれば…
嫌な面も見えて来るかもしれないです
それでも大丈夫ですか?」
『嫌な面って?
チャンミナが本当は治っているのに
北海道から帰って半年経っても
捻挫が治らないって嘘を吐いてた事?』
「それは…嘘じゃないです
痛ければ、治らなければ先輩と一緒に過ごした事を鮮やかに思い出せるようで…
痛いまま無理をして歩いていたら、
痛みが長引いただけです」
腕を組んで嘘じゃあ無いんだと抗議したら
先輩は嬉しそうに笑う
『いつもなら俺を心
配させないでくれ…
そう言いたいところだけど、今日は幸せだから』
「僕もです
先輩が、ユノが好きです」
僕の好きな先輩、ユノと僕がふたりだけで作り上げる新しい道は険しいかもしれないし、今のように笑顔だけではいられないかもしれない
だけど、ユノ先輩となら乗り越えて行きたいと思う
「僕が移住するので…
金賞のお祝いに先輩が来てください」
『あはは、チャンミナも言うようになったな
何でもお祝いをするよ』
お祝い、なんてそんなのひとつしか無い
「早く先輩に触れたいです
…それがお祝いです、我儘ですか?」
『そんな訳無い、って答えになるって分かってるだろ』
あの頃よりも駆け引きも上手くなった
年も重ねているし、
出会った頃の先輩でも僕でも無い
だけど、変わらない事は
先輩を何より好きで、この気持ちは変わらないと…
この一年、ほんの数回しか会えなくとも確信出来た事
時間なんてただただ過ぎ行くものだと思っていた
だけど、先輩と再会して目的が出来た
これからの人生が、僕は楽しみでならないし
きっとユノ先輩もそうだって…
顔を見たら分かるんだ
ランキングに参加しています
最終話なので…
お疲れ様、のぽちっ↓をお願いしますニコニコ

読んでくださりありがとうごさいました
「傷心旅行」同様、Roadから広げた中編でした
どちらもMVの展開をなぞりたかったので、
前述のお話とリンクさせつつも
違いを出せるように出来れば…と思ってはいましたが、技量が伴わずもどかしかったです
ですが、思った最後に辿り着けてほっとしました
拙いお話ですが
お付き合いくださった全ての方に
心から感謝致します
最後なのでコメント欄を解放致します
お時間ございましたら、感想を頂けると
とても嬉しいです(でも、厳しい意見はそっと仕舞って頂ければ…)

ユノの魅力って

彼の実家に行く前に、僕がどうすればよいのかを心に決めなくてはいけない。
付き合って間もないのであれば今年は見送ると言える。
けれど、短くもなければ長くもないから、断るととなると角が立つ部分もあるだろう。
彼の両親だって、彼がパートナーとして書面上の関係を持っている人の存在は知ったあるのだろうから。
その上で行けないと断れば、更に多くの不安を呼ぶことになるだろう。
勿論、彼の家族が持つ、僕への不安だ。
でも、今年は彼ひとりを実家に帰すのもいいのかもしれない。
彼にも自分だけの世界は必要だろう。
人生観を変える帰省になるかもしれない。
僕との関係を、彼なりに見直すことが出来るかもしれない。
―――――――でも、そんなことを、僕が望むだろうか。
それこそ、怖い。
別れたい訳じゃない。
何度もそう思う。
別れたくない。
彼と居たい。
このとても個人的で、かなり勝手な幸せを失うのは、とても怖い。
でも僕はもう、以前の僕に戻りたいとは思わない。
彼と居たい。
この先も、ずっと。
彼が望むものを作り、共に食べることを続けたい。
綺麗事な迷いから抜け出せない。
悩むことから離れられない。
僕の心は、どうしたいのだろう。
日曜日、彼と夕食をとってから、月曜日の仕込みのために実家に帰ることにした。
いつもの様に、月曜日の朝食を用意して。
彼がおやすみのキスをくれて。
悩むくせに、いつも通りの彼の優しさに甘えて心地よくなっている。
だって好きだから。
それは変わらないから。
僕だって、あなたを愛しているのだから。
実家に戻ると父は就寝していて、母がリビングで新聞を読んでいた。
『おかえりなさい、コーヒーいれてあるわよ。』
『ありがとう、』
コーヒーメーカーのデキャンタに入っているコーヒーをカップに注ぎ、仕込みの支度を始める。
注文していた材料の確認をしてタマゴサラダに使うゆで卵を作る。
後は早朝というか夜中に作らなくてはいけないから出来ることはここまでなのだが。
カラカラと音を立てて静かに湯の中の卵を掻き回す。
カラカラ
カラコロ
『疲れた顔してるわね、』
『え?』
背中から飛んできた声に振り向く。
母が老眼鏡をずらしてこちらを見ている。
『思い詰めた顔してる。カチカチのタマゴサラダになっちゃうわよ。』
『、』
『ケンカでもした?しないだろうけど。』
『うん、してない。』
ケンカはしない。
付き合って、ケンカしたことなんてない。
彼はいつだって僕に優しい。
むしろ尽くしてくれてしまう。
『…、母さん、僕が指輪なんてしてたら、どう思う?』
『指輪?別に?貰ったの?』
『…、まだだけど、くれるって。』
『あらそう、いいんじゃない?』
今夜の母も、新聞を読みたいわけではないのだと思った。
僕の帰りを待って、僕が何か話すのを待っていてのだろう。
『それと、年末年始に、彼の実家に行かないかって言われてる。』
『そう、行ってきたらいいわよ。』
『…、でも少し、迷ってる。』
『どうして?』
そこまでの会話のなかに、祖母が入ってきた。
また少し背中が丸くなった祖母は、大病を患うことなく元気でいてくれている。
『おかえりなさい。』
『ただいま。』
僕は湯を沸かし、祖母にお茶を入れた。
「ありがとう」と言ってしばらく温かくなった湯のみを両手で掴み、指先を温めているようだった。
ゆで卵を水に晒し、ザルにあけて今夜はここまでにする。
また数時間後には起きて調理をしなければならいのだから、今サラダを作ってしまってもいいのだが、やはりその数時間の差が味の新鮮さに如実に現れるのだ。
3人で席に着く。
『年末年始、あの子の実家に行くかもしれないんですって。』
『あらそう、素敵ね。』
祖母はユンホの話になると、恋をする少女のようになる。
もう亡くなってしまっている祖父にとても似ているらしい。
『…まだわかんないよ、迷ってる。行くか、やめておくか。』
『いい頃合いなんじゃないの?』
母の老眼鏡越しの視線はなかなか強気だった。
僕はどうして、この強さを母から受け継がなかったのだろう。
かと言って父のような男性的な強さも似なかったと思う。
時々思うのだ。
僕の体が女性だったら、母や祖母のように、もしくは父のように、強さや自信を持って生きることが出来たのだろうか。
『彼だけ実家に帰省してもらって、ゆっくりしてきてもらうのもいいのかなって。』
『帰ってないんだっけ?』
『うん、そうなの。』
『ふうん、でも彼から一緒に行こうって行ってきたんでしょう?指輪も。』
『うん、』
それまで黙っていた祖母が頷いて話し始めた。
『私が行きたい。』
『え?』
僕と母は目を剥いて祖母を見た。
『大事な孫が、こんなに幸せそうで、お礼を言いに、私が行きたい。』
『、』
今はだいぶ迷って暗い顔をしてしまうけれど。
幸せなんだ。
本当にそう思う。
幸せにしてもらっている。
彼は「男性としての役目」を果たそうと努力してくれている。
そしてその努力は、僕ではなくて、もっと彼の家族が素直に喜べるような存在にするべきなのではないかと思ってしまうのだ。
『彼の家族は、
僕に来られても、困るんじゃないかな。』
『どうして?』
老眼鏡を外した母の目が大きくなる。
『…、やっぱり、普通だったら、彼と一緒に行くのは、女の人でしょう。』
この言葉を、直接彼に問いかけられたらどれほど楽だろう。
言うのは苦しい。
でも、伝えられたら、どれだけ答えの近道になるのだろう。
『それこそ、今更じゃないかしら。』
『え?』
母のあっけらかんとした返しに祖母が同調して頷く。
『今更って?どういうこと?』
『あの子が自分の家族に嘘をついたり、あなたのことを話していないなんて、思えないけど。』
また祖母が頷く。
『いきなりあなたを連れていくようなことはしないだろうし、あの子が私たちにしてくれた以上に、自分の家族は大切にする子なんじゃないかしら。』
『…、』
このふたりは、これまで彼をどのように見つめていたのだろう。
僕よりもずっと広く遠く深く見つめていたのかもしれない。
僕以上に。
『だから、自分を助けてくれた人がどんな人かっていうのは、あの子なりにきちんと話していると思ってるのよね。』
『助けた…、』
『そうでしょう?』
『…んん、その、そういうことではなくて、女性を連れていく意味と同じことで僕を会わせようとしてる。多分。だから、彼の家族は、男である僕が来たら、困るんじゃないだろうか。』
僕は今、これまでにないほど、とてもストレートなことを家族に話していることに気付いた。
『だから、あの子は自分があなたのことをどんな風に思って一緒にいるかっていうのも、とっくに話してると思ってるわよ。』
母の語尾が強くなる。
祖母の頷く力も強くなっている。
どうして彼女たちは断言出来るのだろう。
『わたしは、あの子のことそんなふうに信じてるから。』
『、』
信じる。
『そうよ。相手を信じるって、そういうところなんじゃないかしら。相手の人柄を信じた上で、自分が出来ることの最善を尽くす。そして結果が出た時に、信じ合えることになるんじゃないかしら。』
信じ合える。
ああ。
そうか、僕は、信じてあげることが、出来ていなかったんだ。
疑っていたことは分かる。
でも、信じるということを忘れていたことに、今ようやく気付いた。
優しい彼に甘えているだけで、信じることを忘れていたんだ。
『あれだけ育ちがいい子は、逆に嘘は付けないわよ。』
『育ちがいい?そう見える?』
色んなところで小学生のようなところもあるけれど、卑しい部分などひとつも感じられない。
彼の家族とは、どんな家柄なのだろうか。
敷居を跨ぐことが更に怖くなる。
祖母がまたゆっくりと口を開く。
『育ちがいいということは、裕福な家庭で育ったということではないよ。』
今度は母が頷く。
『両親や家族が、どれだけ自分の子供に清く正しく物事を判断できるかという教育をしているでしょう。』
祖母はそう言ってから、湯のみをゆっくりと口に運び、ようやく喉に通した。
『あの子は、清く正しく、私たちに頭を下げたわ。あなたを下さいって。そういうことよ。全部。』
『、』
コーヒーを口に含む。
温くなりかけている。
酸味が少し気になる。
それでも、美味しいと思った。
僕は誰かに励まされたり、慰められたりすることに、逆らって生きてきた気もする。
人と自分の根本的な部分が違っているもいうことで、「どうせ」なんていう言葉を常に抱えて盾にしていた気がする。
普通の人の言葉を、普通ではない自分に当てはまるはずがない。
そう思って生きてきたんだと思う。
それを今、やっと少しだけ飛び越えて、人の言葉で心を軽くするということが出来た気がしたんだ。
『母さん、おばあちゃん、ありがとう。』
『どういたしまして。』
ふたりが声を揃えて言った。
『彼の実家に、行ってみようと思う。』
そしてまた、ふたりは同じ顔をして頷いた。
『あなたの作ったサンドイッチを食べて貰えばもっとよくあなたを理解してくれると思うな。』
『それはちょっと、恥ずかしいよ。』
『私の孫は、どこに出しても恥ずかしくないよ。』
『、』
目頭が、かっと熱くなった。
それからすぐに、目の周りに水気を感じた。
おばあちゃん。
声に出そうで出なくて、目から落ちそうになるそれらを食い止めるのに精一杯だった。
『あの子も、不安かもしれない。』
母の声は優しく静かだった。
『あの子も、何が普通で、何がそうではないのか、あなたと同じぐらい不安になっているかもしれない。』
『それでも、きちんと生きようとしている。』
母が言って、祖母が言葉を重ねる。
彼も、不安だった?
そうなのだろうか。
いや、そうかもしれない。
きちんと生きる。
『そうよ、あなたときちんと向かい合って、生きようとしているじゃない。』
僕と、きちんと。
向かい合う。
今度は胸が震えて、押し込んだ涙がまた出てきてしまいそうになった。
『さあ、寝なさい。仕込みがあるんでしょう。』
『うん、そうする。』
『はいはい、おやすみなさいね。』
『おやすみなさい。』
湯のみに残る温もりで手を温め続けていた祖母は、小さい背中を丸くして寝室へと去っていった。

眠る前に、彼にメッセージを送った。
「おやすみなさい。」
それだけだった。
するとすぐに既読になった。
「おやすみ!」
彼も、それだけだった。
ほんの少し眠る。
そして明るくなるまでに数時間かかるような時刻に起きて、冷たいキッチンに火を灯していく。
サンドイッチの材料を調理しているうちにパンが届く。
お気に入りのブレッドナイフで入刀する。
最初の1枚目が綺麗に切れたから、きっと今日は上手くいく。
そんなジンクスがいつの間にか僕の中に根付いていた。
今日は、彼を想ってサンドイッチを作ろうと思った。
彼と僕を繋いでくれた、祖母と母から受け継がれてきたサンドイッチを、心を込めて作る。
食べて欲しいという気持ちを、込めて作る。
それが僕の幸せであることを感じてもらいたいから、作るんだ。
僕に今できること。
それは、大切な人に食べてもらうことを思って作ることだ。
開店前に、最初のお客様がやってきた。
『チャンミン。』
『、』
ユンホだった。
朝ご飯は食べてくれた?
店の外に出る。
彼はまだ出勤していないらしい。
通勤バッグを持っていた。
『なんとなく、朝イチで顔が見たくて。』
『…、』
それは同じ気持ちだった。
彼から来るメッセージも嬉しいけれど、やっぱり顔を見て、声が聞きたい。
僕の好きな人だから。
『ユノ、』
『土曜は、色々とごめん、困らせてばっかりで。』
『ユノ、そのことなんだけど、』
『うん、』
『今年は一緒に行きたい。僕も。』
『、』
『連れてってくれる?』
『…、もろちん。会ってくれるか?』
この時の、彼の真っ直ぐな目を見て、母と祖母の言っていたことのひとつひとつがよく解った気がしたんだ。
『はい、会わせてください。』
僕はそんな彼に、きちんと向き合わなければいけない。
彼の誠意を、僕も誠意で返さなくてはいけないんだ。
逃げるのは、もう、おしまい。
『それから、…、』
『なに?』
これは今、ふと思ったことだ。
僕らしからぬ、思いつき。
『僕からのクリスマスプレゼントは、指輪を、贈らせて下さい。』
大きく見開いた目。
そして勢いよく首が横に振られる。
『だめだ、それは俺が贈る。』
『それぐらいしか、お金を使うこともなくて。』
『でも、俺は、俺から贈りたい。それに、』
『うん、大丈夫。今度はちゃんと、ああいうお店に行けると思う。』
『…、』
行けるのかは、正直分からない。
また足が竦むかもしれない。
でも、今度は何かが違う。
『チャンミン、』
『はい。』
『その役目は、譲れない。ごめん。』
『、』
スーツを着て真剣な顔をされると、とてもときめく。
ずるいよね、かっこいいって。
せっかく出した僕の勇気がもう負けてしまいそうになる。
『俺は、チャンミンを貰った側だ。その証に、俺は贈るべきものを贈りたい。』
『…、』
このスーツを着たイケメンは、なかなかに頑固者だ。
男性としての信念が揺るがないんだね。
僕とは違って、真っ直ぐでブレなくて、力強い。
『俺はチャンミンを離さない。その誓いに、贈らせてもらいたい。』
言葉の端々まで、なんて力強いのだろう。
彼が砂利を踏んで一歩踏み出してきた。
僕の目の前に立つ。
左手を取られる。
『一生大切にする。その気持ちを、贈りたい。』
まんまと、僕の思いつきの勇気は、彼の力強く頑固な気持ちに負けてしまった。
僕という人間は、なんて弱いのだろう。
そして、なんて強い人なのだろう。
『不安にさせてごめん。これからも、俺についてきて欲しい。』
ああ、そうか。
その言葉を信じればいいんだね。
信じ合える。
そんなことが分かる時は、どちらかの肉体がなくなる時のことなのかもしれない。
信じ続けて生きることが、幸せなのかもしれない。
そして土に還る時に、信じ合えたことが喜びや幸福に昇華するのかもしれない。
信じて生きる。
僕は、彼を、ユンホを、信じて生きる。
『はい。よろしくお願いします。』
そのまま左手で、手を握る。
彼の顔は、自信に満ちていて素敵な笑顔だった。
「クリスマスには間に合わないかもしれないけど、きちんといいやつ、贈らせて欲しい。」
そんなことを言っていたけれど、指輪がどんなものでも僕は気にしないし、善し悪しなんてわからない。
そんな僕が贈るというのも、やはり向いてない事だったかもしれないね。
指輪を贈る。
それって、彼だから似合うことにすら思えてきた。
案の定、時期的なこともあってクリスマスには指輪の現物は間に合わなかった。
間に合わないことに、お互いにごめんねって謝って、笑った。
年明けしてから指に通すことになるらしい。
そして大晦日、彼と共に遠い彼の実家に向かう日。
僕は荷物と一緒に早朝作ったタマゴサラダのサンドイッチと、いちごと生クリームのフルーツサンドを作って持っていくことにした。
彼が毎日欠かさず食べてくれるものと、彼が特に喜んで食べてくれるものを選んで作った。

受け継がれた味を、このサンドイッチで育てられたということを、彼の大切な人達に知ってもらいたかった。
しっかりと保冷剤を入れて、彼の車に乗せる。
『行こうか、』
『はい。』
また同じように、黒のコートに黒のニットとパンツ。
僕達は双子のような格好になった朝だった。
新しい世界に旅立つみたいな気持ちだった。
道中、飲み物を買うけれど、僕が試飲してから彼に渡すものだから、胃がタプタプしていた。
それもいい思い出になるだろうか。
『もうすぐ着くよ。』
そう言われてようやく緊張したような気もした。
長旅だった運転にも関わらず、元気で嬉しそうな顔をしているのは、やはり大切な人達が待っている家に帰れるからだろう。
そんな彼を見届けるのが、今回の僕の役目だ。
新しい顔を見つけて、受け止めるために来たんだ。
そして、僕からも、彼の家族に受け入れてもらう努力をしたいから、ここに来たんだ。
誰かと深く関わり、成り立つものを探しに来たんだ。
人と人との間にあるものが、何なのかを見つけに。
車を降りて、手を繋ぐ。
互いの目を見る。
頷く。
そして信じる。
『ただいま!』
サンドイッチが入った包みを持つ僕の手は、もう震えてはいなかった。
終わり。

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☆ホミン☆

パラレルです
「絶対にいや!!」
あっさり返された答えに俺は苦笑いを
普段は俺の問いにまた問いで返すくせに
少し距離をおいて、お互いにどうしたいいのか考えたらいいと思った
本当はもっと前にこうしていたら良かったのかもしれない
そう思ったから俺は伝えたのに
チャンミンはそれを拒否した
『俺をそんなふうに思っていたんだよな?』
腰に回された腕を外し俺はチャンミンの方へ向く
「そんなふうって…」
『俺が誰でもいいんだって』
「それは…」
『いいんだよ…それが本心だ』
俺はソファに座った
それを見てチャンミンも俺の横に座る
「ユノ…僕は…不安なんだ
ユノはモテるしそれに今日だって二人きりで食事なんて」
『そんなこと…チャンミンはさ、きっと俺を信用できてないんだ
始まりが間違いだった
だから少し距離を置いて考えよう
俺たちのこれからを』
「ごめんなさいユノ、もうこんなこと言わないから
ユノの好きにしていいだから、会わないなんて言わないで」
違うんだよチャンミン…
このままだときっとどんどん間違った方向に
『チャンミン…』
「いやだって…絶対にいや
抱いて…抱けば分かるだろ僕がいいって…そうでしょ?僕の体好きでしょ?
だって好きでもないのに抱けたんだから」
『………』
「っあ…ごめん」
またそうやって俺を傷つけるの?
違う…きっとあの時傷つけたのは俺…
チャンミンは俺を好きで、だけど俺は…そんな気持ちがなかったのにチャンミンを抱いた
チャンミンは真実を言っている
だけどそんなこと…
『ごめん…俺は…どうしたらいい?』
「……ユノ」
『あの時に戻れるのならきっと抱かないよ』
「そんな…後悔してるの?僕を抱いたこと」
『あ~してる
後悔してるよチャンミン…』
「どうして?なんで?やっぱり男だから?彼女がよくなったんだね」
違うよ…違うよチャンミン
俺はおまえが
「っあ…ユノ」
俺は横に座るチャンミンを引き寄せ抱きしめる
『おまえが好きなんだよ…だからあの時に戻ったら抱かない
今度はちゃんと気持ちを伝えてそれから始めるよ
酔ってたからなんて…おまえはずっと思うんだろ?そんなこと戻れるなら絶対にしない
そう思われていることも…俺はつらい』
「ユノ…ごめん、そんなこと…
ユノ本当に僕を好き?」
『好きだ…もう間違いだったなんて思ってほしくないんだ』
愛しているんだ…だから俺を信じて欲しい
「ユノ…僕はあなたが好きです
ずっと好きで…
付き合ってもらえませんか」
『チャンミン?』
「僕…あの日、始まりの日、本当はこの言葉を言うつもりだったんです
だからあなたのそばでそのチャンスを待っていた」
なんとなく集まった仲間たちとの飲み会
そこにチャンミンもいて、見たことある顔だったけれどほとんど話したこともなくて、でも隣に座ってその日は話していたんだった
「でも言えなかった…」
下を向いたチャンミンはポツリと呟いた
好きすぎて言えなかった…って
「怖かったの、もし拒否されたらあなたを見つめることもできなくなる
だから僕…体だけでもそれでもいいって思ってしまって
酔ったユノを誘った」
間違ったのは僕なんだ…
チャンミンはそう言った
『俺たち終わりにしよう』
「……うん」
『そしてまた始めよう』
「うん…」
『付き合ってくれる?チャンミン』
「うん
ユノが好き…大好き、よろしくお願いします」
俺はチャンミンをしっかりと抱きしめた
今度こそ間違えない…俺たちは今日から始まるんだ
おわり
「ユノかっこいいな…」
『また見てるよ、仕事中なのに』
呆気ない!!
番外編書くつもりです。
予約投稿しています。
今の時間友達と忘年会で飲んでいます。多分ほろ酔いです(^_^)
‘>


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