分け入っても分け入っても脱稿
※BL妄想小説です
閲覧にご注意くださいね
深夜二時過ぎ。
いつも一人で飲みに来る大野が
今夜は珍しく櫻井さんを連れて
月の雫に来店した。
「わざわざ私にまでお気遣い
いただきありがとうございます。
せっかくのお二人だけの旅行
でしたのに」
目を細めて言われる。
「お二人だけ」を強調された気が
するのは勘違いではないだろう。
ささやかな土産として、相葉くんと
松本さん、そして何かと世話になって
いる櫻井さんにもTシャツと菓子を
買ってきた。
やはり浮かれていたらしい。
冷静に考えれば、土産を買うなど
「二人で旅行に行きました」と
宣言しているも同然の行為だ。
「いいですね。
私も行きたかったです」
心底羨ましそうに、
櫻井さんは口許を緩める。
「わざわざ」とか「いい」とか
言われれば言われるほど、なぜ土産
など買ってきてしまったのかと己の
行為を悔やまずにはいられなかった。
「あ、お二人の邪魔を
したいという意味では
断じてありませんので」
あげく、そんな台詞を口にされては
羞恥心で卒倒しそうだった。
『すみません。
もう勘弁してください』
心中で何度も謝罪しながら、椅子に
腰かけている大野を横目で窺った。
大野は面白がっている。
まるで他人事であるかのごとく、
煙草を吹かしながら口の端を
少しだけ上げて。
俺がこんなに恥ずかしい思いを
しているっていうのに。
睨んだところで、どこ吹く風だ。
「ゆっくり出来ましたか?
シュノーケリングやゴルフ
などされたんですか?
それにしてはあまり日焼け
されていないようですが。
ああ、スパでのんびりと
過ごされたとかでしょうか」
「…………」
櫻井さんの問いかけに、さらなる
羞恥が込み上げてきて黙り込んだ。
海にゴルフ。
それにスパ。
俺だって、せっかくだからと楽しむ
つもりだった。
だが結局、
そのどれもが計画倒れになった。
「あまり」どころか、少しも日焼け
していないのは当然だ。
ただの一つも実行出来ていない
ばかりか、食事ですらほとんど
ルームサービスで済ませてしまった
のだから。
二泊三日の間、部屋に籠って何を
して過ごしていたかといえば―――
とても他人には話せない数々の記憶を
脳裏で再現して、耳まで赤らんだ。
やはり頭がおかしくなっていたと
しか言えない。
旅行なんて慣れないことをするから、
愚かな真似をしてしまった。
二種類のベッドはもちろん、ソファ、
バスルーム、バーカウンターの上、
テーブルの上、窓際。
極めつけは、バルコニー。
ありとあらゆる場所で、
多種多様な体 位でやりまくった。
吐き出すものがなくなってもなお
やり続け、そのまま寝落ちして
しまうか、何度か気を失う羽目にも
なった。
結果、
三日間ほぼ裸で過ごしたのだ。
「リゾート仕様にカスタマイズ」も
何もない。
購入したアロハシャツは初日の
小一時間ほど着たきりだ。
なぜそんな状況になったのか、
思い出そうとしてもまるで判らない。
肝心のところの記憶がすっぽりと
抜け、場所とか体 位とか、どうでも
いいことだけは鮮明に憶えている。
どちらが誘ったのか。
もはやそういう問題ですらなかった。
南国の思い出がセ ックスのみなんて、
情けなくて、卑しくて誰にも話せない。
「―――これは失礼。
私は何かまずいことでも
聞いてしまいましたか?」
大野が自らベラベラ話したとは考え
られないが、どこまで判ったうえで
聞いてくるのか。
櫻井さんが決まりの悪い顔で頭を
掻いたので、どっと汗が噴き出る。
これ以上この場に留まっていたら、
どんな恥ずかしい思いをさせられるか。
こういう時は早々に逃げ出すに限る。
「……それでは、
私はこれで失礼します。
あとはどうぞごゆっくり」
常套句を口にしながら頭を下げ、
足をドアに向けた。
部屋を出て行く間際に、大野を睨む。
大野はわざと肩を竦め、
丸い煙を天井へと吐き出すだけだ。
そのしれっとした様子に、
通路を歩きながら文句を言う。
帰ったら、家で直接言ってやる。
まともに思い出話が出来ないのは、
やっぱり大野のせいだ。
大野がしつこいのが悪い。
この際だから、自分が誘った時の
記憶の数々は早々に綺麗さっぱり
消し去ってしまおう。
シュレ
ダーにでもかけて屑に
してしまい、海にでもバラ撒いて
しまおう。
そう決めて、羞恥心を振り切る
ために勢いよくオフィスのドアを
開けた。
「……どうしたの?」
先客がいた。
松本さんだった。
いまは櫻井さん同様、
松本さんも避けたかった。
「旅行の話はやめましょう!」
休みをくれた当人に対して口にする
言葉ではないし、厚意を無下にした
みたいで申し訳ないが、先手を
打って釘を刺す。
おそらく松本さんも、櫻井さんと
同じことを聞いてくるに違いない
だろうから。
松本さんは空気を読み、理由を
問わずに「はい」とコーヒーを
手渡してくれた。
だが、ほっとしたのは一瞬。
「のんびり出来たみたいだね、
すごくいい顔してる。
腰は辛そうだけど」
松本さんのこの一言に喉の奥で
呻く。
根掘り葉掘り聞かれるよりも、
衝撃的だった。
冷めたはずの頬が再び熱くなる。
いや、頬ばかりか耳……首筋まで
全部。
「……トイレ、いってきます」
赤らんだ顔を見られたくなくて、
踵を返して早々にオフィスからも
逃げ出した。
いっときのテンションに身を
任せると、あとで痛いしっぺ返しを
食らう。
大野とはもう、旅行しない!
もし行ったとしても、
二度と土産は買ってこない!
心中で唱えつつ、
しかめっ面で廊下を足早に歩く。
上着の内ポケットでスマホが
ブルル…と震えた。
トイレの個室でこっそり取り出して
確認してみると、ラインが入って
いた。
相葉くんからだ。
『新婚旅行はどうだった?
に……じゃない、カズ姐さま。
てっきりまた体調崩したって
お呼びがかかるかと心配して
日本で待機してたんだけど、
腰は平気? 熱はない?
どうせ色白、モチ肌が武器の
お部屋のカズ姐さまは真っ白の
ままなんだろうな、くふふっ』
こちらが、仕事が休みになったと
一番に伝えた時に『悪いけど予定
入ってる』と冷たくあしらったのは
誰なのか。
次の定休日に相葉くんとご飯に行く
予定だったけど―――ドタキャンでも
してしまおうか。
そんなことを冗談半分……いや、
わりと本気で考えてしまったことは
言うまでもない。
終
「魔王【休暇】」、全9話で
脱稿しました。
ここまでご愛読ありがとう
ございました
「あとがき」はまた明日以降
綴ります。
作品保護と自身の保護のためアメンバー
管理を随時行っています。
お手数ですが、お話を読んだあとはその都度
「いいね!」を残していただけるようお願い
します。
ご協力いただけないアメンバーさん、あまり
こちらに見えていないと私が感じたアメンバー
さんは、整理対象者となることをご了承ください。
脱稿の夏、日本の夏。
とりあえず、、脱稿しました!
写真の撮られ方の本、5月になると思います。
しばらく担当の黒川さんに、バトンをお渡しして、文章は一休み。
↑3、4章
その間にイラストを考えたりします。
もうちょっとだー👊🏻
担当の黒川さん、撮らせてもらいました✨
(今回は隠し撮りじゃないよ)
このかわいいお姉さんが「私も写真苦手なんです💦」とか言うから、
がんばらにゃと思うわけです。
体験レッスン
はじめましての方は、まずこちらへ!
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月の雫には、
今夜も会員が足を運んでくる。
俺はいつもと同じ場所に立って、
顧客を笑顔で迎えた。
「堤様、
いらっしゃいませ」
「梅雨時期らしく、
あいにく今夜も雨だね」
「ええ。
けど……いい夜です」
確かに連日続く雨は、
少々鬱陶しくもある。
だが、夜空を見上げて小さく
ため息を零す客にそう言うと、
はっとした表情を見せたあと
ニコリと微笑んでくれた。
「ああ、そうだね。
マネージャーのきみが
そう言うと、不思議と
そんな気がしてくるよ」
「それは光栄です」
客と短い会話を交わし、
ページボーイに案内を任せる。
その背を見送っている背後から、
『根こそぎ奪う』と言った大野の
言葉に嘘はなかった。
六日間はほぼ監禁状態で、ベッド
からもほとんど出られない日々を
強いられた。
そのせいで最後は食事も喉を
通らないほど二日間寝込み、
大野の馴染みの医者……そう、
相葉くんにわざわざ別荘まで出張
してもらうはめになったのだ。
『呆れた……。
ヤりすぎて寝込むなんて
聞いたことないからね、俺』
熱の理由が理由なので相葉くんには
かなり呆れられてしまい、さすがの
俺も小さくなった。
ブツブツと小言を並べる一方で、
どこか嬉しさを隠しきれない様子の
相葉くんを見てしまえば尚更だ。
色々―――。
本当にいろんな意味で、我儘を
口にすることは二度と止めようと
考えさせられた。
「……すみません」
どこまで松本さんは知っている
のか、詮索してくることはしない。
確認する勇気もないのだが、
おそらく聞いてみたところで
松本さんはのらりくらりと適当に
かわすだろう。
「ニノがいなくて
寂しかったし、大変だった。
やっぱり俺にはフロントは
もう出来ないなあって、
つくづく思い知ったから」
まるで子供のような言い方をする
松本さんに、微笑んだ。
「松本さん……」
「だからこれからも
しっかり頼んだからね」
「はい、もちろんです」
「あ、ほら。
お客さまが見えた」
この機会に改めて礼をしたかったの
だが、アプローチに車が止まったので
お預けになってしまった。
でもまあ、いい。
いまでなくとも、これからいくらでも
機会はあるのだから―――。
*:..。o○☆゚・:,。*:..。o○☆*:..。o○☆゚・:,。*
『今夜はもうあがっていいよ。
明日は有給でもいいから』
六月十七日。
二十四時を回って早々、今日は
俺の二十八歳の誕生日ということで
気遣ってくれたのか、松本さんに
急かされるまま、いい気分で家路を
急ぐ。
月の雫まで乗りつけてきた車は
途中でコインパーキングに預けた。
傘も差さず、小走りでマンションに
向かう途中、昔の出来事を脳裏に
蘇らせる。
大野に声をかけられて拾われた、
あの夜から今日でちょうど、まる
十一年だ。
あの夜も雨が降っていた。
家を出たばかりで浮かれていて、
わざと水たまりに入って飛沫を
跳ねさせ、くるりと回って踊った。
♪ワン・ツー・スリー♪
「♪アン・ドゥ・トロウ♪」
懐かしさにおかしくなり、
くるりとその場で回る。
見知らぬ男について行くなど無謀
以外の何物でもなかったが、
いまから思えば、あの時の自分は
好奇心のほうが勝っていたのだろう。
きっと、それまで出来なかった
ことをしてみたかったのだ。
「♪ワン・ツー・スリー♪」
歩道の上でまたくるりとターンした
時、視線に気がついた。
「……なによ。
声かけてくれたらいいのに」
ばつの悪さに、唇を尖らせる。
前方に目をやると、マンションの
前に停まっていたベンツが去って
いくところだった。
ルームミラーで見ているに違いない
若い運転手に頭を下げる。
「楽しそうに見えたからな」
大野が双眸を細くした。
明らかに面白がられているのが判る。
十七歳の頃の出来事を再現した
あげく、それを当事者に見られる
なんて―――これほどみっともない
ことがあるだろうか。
「俺のことは気にせず
好きなだけ踊ればいい」
さらには、これだ。
「悪趣味だね」
わざと舌打ちをした。
『おまえ、頭が弱いのか?』
雨の中、くるくると踊る俺を見て、
大野はそう言った。
いつもなら腹を立てていたであろう
一言も、その時は全く気にならず、
かえって高揚した。
自分はもう昨日までの自分じゃない。
これまでの自分は捨てたんだ、と。
「智に下心があるなんて
知らなかったから。
俺、ついて行ったんだよ」
大野がもしロマンティストで多弁な
質だとしたら「下心じゃなくて
恋心だ」もしくは、「一目惚れだ」
などと、甘い言葉を語ってくれたの
だろうか。
そんな起こりもしないことを頭の
隅でぼんやり考えながら意趣返しの
つもりでそう言うと、大野が真後ろに
聳え立つ豪奢なマンションを一度
仰ぎ見て、こちらへと視線を戻した。
「まだ踊るつもりなら見ているが。
そうじゃないなら一緒に帰るか?」
「――――」
過去と現在が交差する。
『だったらウチに来るか?』
全てはあの一言から始まった。
あの瞬間、
あの出逢いで、
俺の人生は大きく変わった。
そして、いまは「来るか?」が
「帰るか?」になった。
その事実に、自分の過ごしてきた
月日が無意味ではなかったのだと
実感出来る。
大野も同じように思ってくれて
いたら嬉しい。
大野の傍まで駆けて行き、
スーツの腕を取った。
「帰ろうっ。
……ってそれ、何?」
ぐいと腕を引き、大野を急かした
ところで、反対側の手にぶら下がって
いた紙袋にいまさらながらに気がつく。
「ケーキだ。
おまえの誕生日だろう、和也」
「お、覚えててくれたの?
まさか、ケーキも智が…?」
「これは櫻井からだ。
誕生日だってならケーキくらい
用意しろってあいつが持たせた」
「…………」
『二宮さんの誕生日という
ことでしたらケーキの一つでも
用意して帰るべきです。
きっと喜んでくれますから』
きっとそんなことを言ってくれた
であろう、櫻井さんが目に浮かぶ。
さすがは大野のことを十二年間
一番近くでずっと支えてきた、
若頭補佐だ。
そして、やはり大野は大野だ。
大野が自ら用意した甘さまでは
ないにしても、今日が何の日
なのか俺が何も言わずとも覚えて
くれていたのだ。
そしてそれを櫻井さんに話して
くれていた。
そんな智でいい。
そんな智がいい―――。
「ありがとう、智。
俺、すごく嬉しい」
素直に礼を伝え、
引いた腕に自分のを絡める。
「機嫌がいいな」
これには、大きく頷いた。
「俺の人生、
案外バラ色なのかもね」
差し引きゼロどころか、充分すぎる
くらい満ち足りた日々だ。
隣には大野がいて、
大事な人たちに囲まれ、
これ以上望むことはない。
「バラ色、か」
ふっと大野が笑む。
穏やかなその横顔を前にして、
たったこの程度でときめく自分の
手軽さに呆れる一方で愛しくも
なってくる。
しぶとく十七歳の頃の初恋を叶えた
のだから、胸を張ってもいいはずだ。
「いい月だね」
大野の腕に手を添えたまま、
夜空を仰ぎ見る。
雲の切れ間から覗く下弦の月は、
ずっとそうだったように今夜も
柔らかな光を放っていた。
紫紺の絨毯に嵌め込まれた青白い
原石のように美しく、無数の針の
ように落ちてくる雨は、まさに
月の雫。
誰しもが持っている、胸の奥深くに
ついた傷痕を優しく癒してくれる
ようだ。
「……ああ」
大野も同じように仰ぎ見て頷く。
幸せだな、と思った。
心底惚れた男に惚れられ、
寄り添える人生はまさしく
バラ色で、幸福に満ちている。
はたから見れば特異な生き方で、
っているのだとしても、自分
―――全部乗り越えてやる。
愛しい男の温もりを感じつつ、
夜空に浮かぶ月に誓った。
終
「魔王」、全69話で無事に
脱稿です。
ご愛読ありがとうございました
「あとがき」はまた明日にでも
綴ります
作品保護と自身の保護のためアメンバー
管理を随時行っています。
お手数ですが、お話を読んだあとはその都度
「いいね!」を残していただけるようお願い
します。
ご協力いただけないアメンバーさん、あまり
こちらに見えていないと私が感じたアメンバー
さんは、整理対象者となることをご了承ください。